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作成年月日:2012年11月6日

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海外情報−中国10月分

作成者:中国 上海 佐藤 忠幸

中国では古い日本的人事管理では経営不可

中国における日系機械商社の多くは、日系企業を相手に発展成長を続けていた。しかしそれも過去形となった。

過去、中国の日系企業は、中国に進出しても日本製の機械・設備を輸入し、高品質・高精度を武器に日系企業相手にビジネスをしてきた。しかし、日系企業相手だけのビジネスには限界が見えてきた。更に昨今の日中関係の悪化がそれに拍車をかけ、日系企業は元気がなく、中国企業向けのビジネスの比重を上げ始めてきた。そうなれば、日本製の機械だけに頼ることはできず、中国系企業製の機械も購入するようになった。要求精度からいっても、原価的にもその方が合理的であるからである。
その結果、優良機械商社といえども、過去の仕事の仕方では継続的に成長を続けることが不可能となってきた。

この現状に対して危機感を持ったA社より、人事管理面での対策相談を受けた。

中国人幹部不在のA社

A社のご相談の前に、労務構成の実態を伺った。中国各地の支社を含めて総人員約80名であり、内日本人は20名。日本人は、董事長(会長)総経理(社長)副総経理(副社長)と支社長および各部長で、全員が高級幹部である。

中国人は、課長にも就いてなく、全員が平社員であり、不満が溜まっている様子(商社の多くは同じだそうだが)。既に、顧客に訪問した場合、日本人だけで行っても用件をこなせない事態が起きつつある。日系企業といえども購買部長の多くが中国人であり、ましてや、中国系企業相手には日本人だけではどうしようもない。

日本人の人事は子会社に権限がない

A社総経理に、どうしてそんなに多くの日本人が必要なのか伺うと、「日本人は20人も要りませんが、誰が来て欲しいとか、何人派遣して欲しいとか言う権利は中国法人にはありません。親会社の都合で勝手に送り込んで来るのですよ」とお困りの様子。

日本人の中堅正社員を中国に送り込めば、「現地給与、住宅費、通勤費、日本への定期的帰国費、個人所得税の日中格差補填、海外旅行保険その他(子連れであれば日本人学校の費用や寄付金など)、そして日本の留守宅給与」で、一人につき平均で2千万円/年必要であり、20人もいれば年間約4億円もの労務費となる。

それの全てを現地法人が背負っており、そのことは人事・財務に関わる担当者から大部分の中国人社員に伝わっている。

ちなみに、60名の中国人社員の平均賃金は約6000元(A社は商社であるので高い方)であり、社会保険その他を含めた労務費は約1万元(日本円で約125,000円)である。60人の年間労務費は賞与を含めても約1億円であり、20人の日本人の1/4でしかない。

中国で、4億円の付加価値を稼ぐには大変なことであり、経営者から儲けが少ないと言われても中国人社員から言わせれば「何で安月給の俺たち中国人が、あいつら日本人を食わせなければならないのか」という不満が出ないのかと心配になった。

歩合給を導入しても不満は解消できない

A社より、更にお話を伺うと、やはり「賃金に対しての不満が出ており、それをどうすべきかが今日の相談です」とのこと。特に多いのが次の2点。

1. 後から入社した者の賃金が相対的に高く格差が小さい。古参の俺たちはもっと上げるべきだ。
これは、毎年のように世間相場が上がるための現象でもあるが、年功序列型賃金制度の弊害である。

2. 成果の大小が給与に反映していない。歩合給を導入してくれ。
歩合給導入の前に、現状の賃金体系が個人の能力と業績を反映していない、つまり「個人成績に対して不公平」だということが問題。
現行賃金に歩合給を上乗せしても、不満の解消にはならず、単に賃金総額を増やすだけであり、ましてや歩合給に格差をつけたら不満が増幅されてしまうだろう。

A社社員の不満は、賃金額に対するものではない。

賃金の公平性に対するものと、日本人との格差、そして日本人が全ての権限を握っており出世もできないことへの不満である。歩合給の導入だけでは絶対に解消できないだろう。

賃金の公平化・評価制度導入が先決

賃金というものは、世間相場以上に出せばよいというものではない。勿論、世間より高ければ採用し易いし、世間より低ければやる気も起きないだろう。世間よりも高すぎても意欲が継続しない。社会相場にはある程度追従せざるを得ない。これを社会公平性という。

しかし、折角優秀な社員を採用しても「育てたら終わり」では意味がない。育てた後、少しでも長く働いてもらいたい。そのためには、優秀な者と優秀でない者、よく働く者と働かない者との格差が必要である。ダメな者よりよい者の方が必ず高い評価を得て高い賃金を得なければ、公平な賃金とは言えなく、これを社内公平性という。

ダメな者もよい者も、大して変わらない賃金であるなら、残って欲しい者は「俺を正しく評価してくれない」と言って辞められる。残るのは何処にも行けないダメな者ばかりとなる。

中には、愛社精神で永く働いてくれる人もいるだろうが、中国で外資系企業に勤める社員にそれを期待することは間違いである。(今では日本も同じだろうが)

前置きが長くなったが、A社の賃金は世間相場と属人的(勤続年数、年齢、学歴、性別など)賃金が優先される、古い日本的制度であり、中国では絶対に通用しない。

曖昧な評価・賃金制度の上にあいまいな歩合給を乗せれば、ますます混乱するだけである。まず、職能または職務別の評価制度を確立し、それに賃金をリンクさせる必要がある。

それは、多くの永年勤続社員にとっては既得権を損なうものでもあり、抵抗があるだろうが、今後も発展成長を継続させるためには、何としても成し遂げる必要がある。

社員と話し合える環境を

A社には、中国人幹部はいないし労働組組合もない。すなわち、公式的には会社と中国人社員との対話の場が無いのである。

会社が、過去を断ち切り思い切った政策を実行するには、対話の場が無ければ不満は山猫ストとなるか、外部訴訟となり、それを面倒だと思ったら辞められるだけである。

まず、日本人の多くは顧問としてラインから外し、中国人の出世の道を開くことが必要であり、労働組合などの社員代表組織を作り、協議の場を作る必要もある。

人事・賃金制度は、社員全員が満足できるものは有り得ない。会社の姿勢を根気よく説明し理解を得て説得する必要があるが、これを社員全員との集団協議では一部の過激派に牛耳られるだけで不可能である。最初は全員へ説明し、後は代表者との間で冷静に話し合いをすべきである。

 

現下の日中関係から考えれば、幹部対社員すなわち日本人対中国人という対立構造は絶対になくさなければ継続経営できないだろう。

A社は、まず労働組合(中国でそれに相当するのは工会という)を作らせようということになった。
工会の設立と運営については改めてレポートする。

以 上