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作成年月日:2012年5月8日

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作成者:中国 上海 佐藤 忠幸
タイトル:中国の建築見積常識を理解しなくて困惑

 中国では、相変わらず日系企業の工場建設は盛んに行われている。そのため、日系ゼネコンも活躍しているが、受注には苦戦している。理由は「高くて遅い」ことにあるが、新工場建設の責任者になっている日本人担当者が、中国の建築にかかわる見積の常識を知らないことに大きな原因がある。見積書だけを見て、中国系建設会社に発注し大幅な建築に遅延を生じて事業計画に大きな齟齬をきたしている企業は数多くある。

 無錫市に新会社を設立したR社は、2011年に設立し、同年1月より新工場建築に入り、同年9月より操業開始すべく人材を集め、教育研修も4月から開始した。研修は11月に完了する予定であったが、現実には建築が大幅に遅延し、2012年5月に完工することが分かり研修を中断した。

 上海市にあるT社は、創業して7年。行政区の事情で立退きを余儀なくされ、同じ上海市内の他区にある工業団地に新工場を建設し、移転をすることとなった。2011年12月より建築開始し、6月中に完工し移転する予定であった。新工場では、幹部の気分を一新し、5S運動もしっかり行うつもりである。そのために2012年2月より幹部研修および5S研修を開始したが、工場建設は大幅に遅れ、10月となることが分かり研修は中断した。

4月に両社を訪問し、幹部研修の今後の進め方と再開時期を相談した。

両社の研修中断理由と影響
  両社とも、新工場の建築完工時期が大幅に遅延したことが原因であり、研修計画とその目的に沿わなくなったからである。

(1) R社の事情
 2011年1月に、仮事務所を市内の賃貸マンションに作り、幹部要員および総務ならびに会計担当者を採用し始めた。ある程度幹部要員がそろった2011年4月に幹部研修が始まった。その目的は次のとおりである。
@ 新会社操業に向けて意識を結集させる。
A 操業前に幹部の意識を高め、理念と目標を共有化する。
B 幹部の意識と知識の基礎レベルでそろえる。
C 操業開始と同時にフル生産体制に入れるように各種システムの構築と標準類の準備。
D 生産開始および各種業務をしながら研修で学んだことの実践と反省。

 ところが、新工場完工が9ヶ月も遅れたため、全コースを予定通り終わらせると、研修内容を実践しない空白期間ができてしまい、忘れてしまうとの予想で中断し、2012年7月から再開することとなった。

(2) T社の事情
 操業開始して7年経っているが、業績は伸び悩んでいる。新工場への移転をきっかけに発展成長させるべく、2012年2月から次の目的で研修を開始した。
@ 新工場の未来像と経営理念を確立し幹部と共有化する。
A 幹部の意識を一新し、新工場に現工場の悪弊を持ち込ませないようにする。
B 現工場で5S運動を開始し、整理された資産とよい習慣だけを新工場に移動させる
C 新工場で採用された者を、自然によい環境と厳しいしつけに溶け込ませる。
D 新工場で操業開始と同時にフル生産体制に入れるように各種システムの構築と標準類の準備。
E 新工場での生産再開および各種業務をしながら研修で学んだことの実践と反省。

 ところが、新工場への移転が4ヶ月延びることが分かり、全コースを予定通り終わらせると、研修内容を実践しない空白期間ができてしまい、忘れてしまうことが予想され中途で中断し、2012年8月から再開することとなった。

新工場建設遅延による損失
(1) R社の損失
 問題は研修が中断したことだけではない、次の費用が余分に出ることとなり、その総額は、「建築費の安さ」というメリットを遥かに超えた。
@ 約40名の従業員を9ヶ月無駄に雇った。
A 仮事務所家賃と経費が9ヶ月無駄になった。
B 9ヶ月操業開始が遅れたことによるビジネスの機会損失。

(2) T社の損失
 問題はR社同様、次の費用が余分に出ることとなり、その総額は、「建築費の安さ」というメリットを大きく減じた。
@ 3ヶ月操業開始が遅れたことにより、幹部の意識改革も遅れ、発展成長の機会損失。
A 工場移転が遅れたことにより、立退き補償金が減額された。

中国建設会社の建築見積の習慣
 両社とも建設発注先は、いずれも中国で有名な国営企業であり、そこに発注した理由は納期が早く安いからである。価格は日系ゼネコンの半額以下であったそうだが、結局は両社ともにそのメリットはなかった。中国の建設会社の習慣および体質は大幅に遅れていることを理解する必要がある。

@ 見積工期にリスクを一切見込んでいない
 中国の建設会社の見積工期は、全てが順調に進んだ場合の工期である。すなわち、全て晴天であり、労働者も熟練者が揃っており、材料も予定通り集まり、地震など災害は一切無い工期である。

A 見積金額にもリスクは見込んでいない
 見積金額も工期同様にリスクは見込んでいない。すなわち、予定通りの金額で材料を調達でき、工期もリスク無しで見込んでいるので労務費は大幅に安い。このため、工期変更などリスクが生じるたびに追加費用の請求が出る。

B 材料見積金額は自社の常識での金額
 日系企業からの見積書と詳細に比較すると、材料明細書が大幅に違う。詳細な仕様が明記されていないからである。問いただすとその仕様はその会社の常識で作られており細部において施工主の常識や要求と異なり、追加・変更仕様が続出し、それが全て追加金額となる。

C 設計と施工は会社が異なる
 日本でいうところの、ゼネコンは中国には無い。そのため、設計会社と建設会社が異なり、建設会社も様々に分業されており、それらを統括管理は施工主が行う。施工主にその適任者・経験者がいない一般民間会社は、工期や金額に齟齬をきたしやすい。

D 実際の工事は下請けと孫請け
 建設会社と詳細を話し合い、よい方向を見出しても実際に工事を行うのは下請けであり、孫請け業者である。次々にピンハネされ、孫請けに渡る金額は極めて安価であり、期待を裏切られた工事結果となる確率が高い。

 これらの習慣は、施工主の大部分が国や自治体であった計画経済の名残である。これらを理解した上で業者選定を行わなければ今回の事例となる。ひどい場合はバックマージンや賄賂も見積りに含んでいる。 御社が施工主の場合、それらを受取るのは誰でしょうか?

以 上