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中国

作成年月日:2011年3月4日

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労働組合の設立勧誘で騙された

 蘇州市のK社は、創業して5年の重機用機器の製造会社。販売は他の現地法人が行なっており、そこからの生産計画指示にしたがって作るだけとなっている。社員数は、毎年倍増しているが2011年1月末現在でも約160人と小規模である。
 副総経理(副社長)のN氏は、創業時以来、日本本社から赴任している。総経理(社長)は、既に3人目であり、中国のことを学ぶ期間もないことから人事労務面および財務面は全てN氏に一任している。しかし、N氏は日本では技術系の経歴しかなく、人事労務面および財務面実務は中国人スタッフに頼っていた。
 創業から5年が経って、N氏自身が知識を得て社内を振り返って見直すと、様々な問題に気がつき今回の相談となった。問題点は数多くあったが、今回は社員代表者組織および労働組合について取り上げる。

<相談内容>
 @ 社員代表者組織は現状ないが法的にも必要か
 A 社員代表者組織は工会(労働組合に相当)でなければならないのか
 B 中国の工会は有効か
 C 工会費用は払わなければならないのか

<2011年2月現在の問題点>
  本年、人事制度、賃金制度を抜本的に改める予定であり、その相談を受けたことから、労務規則・条件の改定手続きの必要事項を説明した。その中で社員代表者との協議事項があり、社員代表者組織の有無と実態を聞いたことから今回の問題が発覚した。

1 社員代表者組織がない
 K社は、次の理由で社員代表組織を作っていない。
 @ 創業間もなく、未だ会社の基礎ができていない
 A 社員数が少ない(今は160人いるが、2010年当初は80人程度)
 B 社員代表者組織の代表となる適任者がいない
 C 社員がその必要性を感じていなく、誰もやりたがらない(代表者組織は労働者の自主的・主体的組織であるべきだが、中国ではそれをやりたがる労働者は少ない)

 日系企業の多くは、同様の理由と親会社の労組アレルギーで社員代表者組織を作っていない。したがって、形式的な代表者を登録し、その者と協議した形式を整えて署名を受ける、あるいは全社員の署名を得て、協議したことに代えているが、本質的には違法行為である。それだけでなく、社員が「我々は、この改定についての議論に参加していない。署名した者は我々の代表者とは認知していな」と訴えられれば会社の負けである。
 中国の労働法(日本の労働基準法に相当する)および労働契約法では、労働条件およびそれに関する事項の改定には、労働者または労働者代表組織または工会(日本の労働組合に相当)に説明し意見を求めなければならないと定められている。特に、2008年施行の労働契約法ではそれが明確に規定され、それを行なっていない諸施策は無効とされることすらある。

2 社員代表者組織は工会(労働組合に相当)で無ければならないのか
 中国労働契約法では、「労働条件およびそれに関する事項の改定には、労働者または労働者代表組織または工会に説明し意見を求めなければならない」と定められている。そして、工会法(日本の労働組合法に相当)では、工会の運営および役員の選出は民主的で透明性を要求しており、工会でない社員代表者組織もそれに準じていることを要求している。したがって、労働者代表組織または工会のどちらかがあってそれが機能していればよい。

3 中国の工会とは何か
 中国の工会は労働組合と訳されるが、厳密にいうと日本では労働組合とは認められない。中国政府公認の労働団体というだけである。その理由は、@規制が多く自主的活動ができない、A活動範囲が企業内の経済活動に限定されており、企業の発展成長への協力を義務付けている、B企業から費用をもらって運営しており、専従役員の給与も企業が払うことを義務付けている、などにより自主的、主体的な活動ができない、支配介入が露骨である、など、労働組合の必要要件を満たしていないからである。
 そもそも、中華人民共和国は、労働者と農民が決起してできた国すなわち労農国家と言われていたため、労働者は保護すべき対象ではなかった。政治的な思惑も含めて、工会は作らせたものの、共産党の下部機関的な存在となっていた。しかし、市場経済という資本主義的な経済体制となれば、労働者は資本家・経営者に対して弱いものなり、保護すべき対象者と変わった。このため、2008年より労働契約法が施行されたのである。ゆえに、日本で言うところの労使関係は、過去の中国には無く、これから構築するしか道はないといえよう。工会の上部団体である地方総工会や地方行政当局においても、労使関係を真に理解し指導できる者はほとんどいないと思われる。
 したがって、中国政府は労働契約法施行を前に工会の組織率を高めるように地方政府に指示をしており、地方労働局と地方総工会は共同で企業に圧力をかけて強く勧誘した。勧誘手段として工会法で定められている工会費の企業側拠出金(労務費の2%)を集め始めた地方もある。工会を作ればその内の60%を戻してやるとの説明である。
 法律では逆である。工会を作れば、企業が労務費の2%を工会に拠出し、その内の40%を上部団体へ上納することとなっている。先取りして戻すなどは違法行為であるが、これに騙された企業は非常に多い。
 工会のないK社は2006年から拠出金を払っており、その額は累計で50万元(600万円強)近い。しかし、勧誘は止まっている。もう一つの勧誘手段として、企業側が「代表者に適任者がいない。」といえば、人事部長や工場長など会社側の者を指名させているケースもあった。この姿勢に違和感を覚えたN氏は工会設立の拒否はした。支払っている拠出金はそのための費用として考えている。

4 中国の工会は有効か
 既存の工会では存在の意味がない。それが証拠に、工会がある企業でもストライキは起きている。 工会は実質的な労働者代表組織となっておらず、労働者の問題を吸い上げておらず、相談相手にもなっていないからである。工会代表者が人事部長の企業では、当然それらのことをしていない。
 労使協議制・労使交渉制を導入し、大会制度や職場集会を導入すれば、法的に過激行動や争議抑制を義務付けられていることから、よきパートナーになることは間違いなく、有効な組織となる。
  しかし、それを指導できるのは日本人経営者でしかできないであろう。繰り返すが、中国にはこのような労使関係は今始まったばかりなのである。

5 社員代表者組織の長短
 2項で上述したとおり、労働者代表組織が工会である必要はない。民主的、自主的に結成され運営されていれば、法外組織である社員代表者組織で問題はない。どちらにしても、経営者次第である。

【長所】
 @不適切な運営をしていれば、直ぐに地方労働局や地方総工会の圧力がかかるので緊張感を持って適切に運営する。
 A上部団体がないため、自由。
 B上納金不要。
【短所】
 @外圧がうるさい
 A経営者がしっかりしていなければ有名無実となり、変な形で工会に転進される。

<対策提言と今後の進め方>
1 工会の設立
 地方総工会に支払い済み(預け金)のため、いまさら法定外の社員代表者組織を作ることは適切ではないので、工会を設立する。
 その代表者として適任者は永久に現れることはないので育てなければならない。育つ可能性のある者を選ばせる。(選出方法と代表者育成ならびに運営方法は別途指導する。)

2 支払済み拠出金を取り返す
 地方総工会と交渉して、支払い済みの拠出金約50万元(600万円強)の全額を返却させ、工会設立後、あらためて工会費として上納する。
 その上納金についても、日本人比率が多いことを理由に労務費比率を交渉する。交渉不成立の場合は、上部団体(収めた先が区の総工会なら、市か省の総工会)へ訴える。実質的に政府の下部組織である地方総工会にとっては、上部団体(上司)がもっとも怖い存在である。それでも駄目なら訴訟を起こす。