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中国

作成年月日:2010年11月4日

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現地法人の人事管理について

上海市の日系独資H社は、創業8年になるアルミダイキャストの会社である。
H社のT社長(総経理)は、H社入社前に日系大手商社の上海法人の社長を7年ほど務めた、中国での企業経営の大ベテラン。このため、H社日本本社社長のたっての依頼でH社に入社し会社の設立から経営に携わってきた。ただし、製造業の経営はH社が初めてである。
親会社は、電動工具の大手メーカーM社とのつながりが強くM社が中国に進出するのに合わせてH社を設立し、ダイキャスト部品を独占的に受注してきた。M社の成長に合わせて、2007年まで業績は順調に伸びた。

2008年金融恐慌以降は売上げが急激に減少したため、2009年より経営の多角化を目指し、中国での受注活動を開始した。自動車系、家電系と受注先を拡げたところ、華東地区に日系ダイキャストメーカーが少ないせいか、予想以上に受注を確保した。さらに、M社も業績が回復したため、大増産を余儀なくされた。M社は日本での長期・最大の顧客であるため要求を断ることができない。
結局、多品種大量生産となり、管理レベルの引き上げをしなければならなくなった。加えて電動工具と自動車系や家電系では要求される品質と生産管理水準が全く異なり親会社以上の水準に引き上げる必要性が出て来た。
この業界の経験者は、人材市場には少なく新規雇用で現状を脱皮することは困難と判断し相談を受けた。

<2010年現在の人事管理の問題点>
2日間に渡る、T社長および管理者との面談で明らかになった問題は次の5点。

1、日本人管理者と中国人管理者間との大きな壁
問題が起こるたびに、日本人は「中国人のレベルが低い」と嘆き、中国人は「日本人は我々に相談しない」「日本人は問題解決能力が低い」と陰口を言っており、大きな壁ができていた。この原因は、コミュニケーションが徹底的に不足していたことにあるが、中国人管理者を傍観者に立たせてしまったことが大きな問題。

  1. 日本人出向者に管理職経験者なし

 日本の親会社は、長い間M社の仕事ばかりしており、若手の管理者を養成していない。管理者は熟年の職人気質の者ばかりだったために、中国では不適と判断し、若手の技術者を抜擢して出向させた。しかし、管理職としての経験も教育も受けていないため、中国でも管理職は勤まらず、「中国人を使って成果を出す」という基本的なことができない。

  1. 経営者・管理者に次任者・後継者不在

 日本人管理者兼技術者は当面の業務をこなすのに精一杯で、しかも管理者としての職責を知らないために、後継者候補を育てていない。
中国人管理者も、自分の立場を守るためか、次任者を育てていない。
また、人事方針も無く、後継者候補・次任者候補の必要性を感じていないために、それらの候補者も採用していない。
高度な管理を要求される業務を開始し、また3交代勤務が必要になった場合、管理者は、質的にも量的にも全く足りない。

  1. 親会社にも応援を求められない

親会社は歴史のある中堅企業であるが、長い間M社に支えられていたため、多品種生産や異業種の技術および管理能力がない。中国法人H社が独力で解決するしかない。

  1. 真の人事部長不在

M社のおかげで順調すぎた経営であり、人事管理の必要性を感じなかったためか、真の人事部長はいない。会社設立時に地方政府との交渉に役立った62歳の男性(中国では60歳過ぎれば老人と見なす傾向がある)を人事部長としておいているが、現状の困難時には、日本人管理者の力の無さを嘆くのみ。労働者を如何に安く使うかという古い人事管理しか出来ず、全く役に立たない。

T社長は製造業が初めてであっても、M社のおかげで問題なく勤まっていた。さらに、経営センスと高い人格・人望を集め社長批判をするものはいない。T社長を中心にまとまっており、会社の柱となっている。
逆に言えば、全てがT社長と直結した組織となっており、組織活動ができていない。
したがって、この難局を乗り越えられなければT社長に批判が集中し、柱が崩れ、会社が崩壊することは目に見えている。

中国の製造業は大きく変化している。

9月の報告と同様に、2008年以降は日系企業の中国での部品調達率は飛躍的に上がっているが、その条件として日本並みの品質を要求される。しかし、要求価格は中国標準。特に家電業界の価格要求は厳しい。
品質向上と値下げという、難しい顧客の要求に応えない限り、他社に注文が流れることは必至である。

<当面の対策は下記2点>

  1. 幹部教育の実施

 幹部同士、日本人と中国人、さらに管理者と監督者との壁をなくし、風通しのよい会社にするためには人の入れ替えよりも、現有勢力を鍛えなおすべきとの判断。
幸いにして、T社長は尊敬されており、その経営理念も確かなものであるため、それを全幹部が共有することを手始めとした。続いて幹部の職責を理解させ、コミュニケーションのあるべき姿を理解させることとした。
日常茶飯事となっている「言いっ放しで役割を果たした」という姿勢の根絶を図ることとした。

  1. 5S運動の開始と指導

5S運動の必要性と効果を話し、この国では最も難しいと思われている、躾教育を中心として開始することとした。
5S運動の経験者が日本にもいないため、業者に指導委託することとした。最優先課題は躾であること、それをベースとした源流管理を行うことを中心とした。

<将来課題>

  1. 人事部長の交代
  2. 人事制度・賃金制度の構築